肉汁爆弾

いろいろメモっていきます

自宅で石焼き芋研究の4(ペクチンの作用)

前回までの記事
sugaret.hatenablog.com
sugaret.hatenablog.com
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まだ検証できていかった疑問

甘くて美味しい芋を作ることはできたものの、βアミラーゼの活性温度である70度程度で温度を保ち続けると、今までにないほどの固さの芋になってしまいました。これは何故なのでしょうか。いろいろ調べているとこれはペクチンという成分の影響だということがわかりました。

ペクチンの作用

ペクチンは中途半端な温度で加熱をすると固くなり(〜70度程度)、高い温度で加熱すると軟化する(80〜90度程度)という性質がある模様です。しかも、一度固くなってしまった野菜は高温で加熱してもなかなか柔らかくなりません。これは芋に限らず割と多くの野菜で共通する性質らしく、煮崩れしやすい野菜は水から茹でると崩れづらくなるのはこの作用を活用しています。前回の実験でβアミラーゼの活性を高めるために70度で長時間加熱したところ、カッチカチの芋に仕上がってしまったのもこれが原因でしょう。

これを踏まえて美味しい芋を作るレシピとして「βアミラーゼの活性を最大限高めて麦芽糖の濃度を高めるのではなく、ペクチンが作用して固くなる温度帯をそこそこの速度で通過させつつ(反応はそこそこに)、水分をできるだけ飛ばし、結果的に甘みを強調する」というものが提唱されているようです。一般的な石焼き芋はそれを意識しているかどうかは別として、この手法をとっているのではないかと思います。このあたりのテクニックが体系的にまとめられていた記事があったので紹介しておきます。(ちなみにこのNickさんは低温調理のレシピ関連でも非常にお世話になっています。)
nick-theory.com


ペクチンの作用についてもう少し幅広く調べていると、上記の特徴以外にも軟化・硬化に関するテクニックがあることがわかりました。
1. ある程度低い温度でも時間をかければ柔らかくなる
2. pH=3.0程度で煮るとより固くなる。柔らかくしたいのであれば7以上にしたほうが良い
3. 野菜を冷凍するとペクチンが損失し、軟化する

引用論文はこちら。
野菜の加熱とペクチン質 日本調 理 科 学 会 誌Vo1.40,No.1,1~9(2007)〔 総 説 〕

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今回はこの中でも1. を発展させて実験を行ってみます。論文中では70度でも24時間程度煮れば、ある程度柔らかくなるとあります。この柔らかくなるのが「ある程度」だということと、論文で対象にしているのは基本的に大根なので、芋でどの程度通用するのかわかりませんが、やってみましょう。

予備実験

と、その前に本当に70度の低温調理だと固くなった芋が、80度の調理だと柔らかくなるかを見てみましょう。

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蜜無

「軟化したら硬化しない」というのも確かめるため、80度で1時間ほど煮たものを更に70度で1時間ほど低温調理してみました。石焼やオーブン調理よりは固い印象はあります。焼き芋というよりはふかし芋みたいな雰囲気ですね。


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切ってみました。柔らかさは十分食べられるレベルですが蜜が全くでておらず、かなり今ひとつな仕上がりです。70度で加熱することでもう一度ベターアミラーゼが活動してくれるかと思ったものの、80度で1時間加熱したことですでに失活して不可逆な状態になっていたのでしょうか。あるいは糊化しきれていなかったのか。いずれにしろ上手くいきませんでした。

70度で24時間、芋を煮る

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さて、本番です。といってもひたすら煮ているだけなので、待つだけなんですけどね。


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最初の6時間。しっとりしている程度。


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寝て起きて12時間ぐらい。なんか蜜みたいなのがでている気がする?じわじわアミラーゼの反応があるのかと期待したが、触ってみてもかなり固い。


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18時間ぐらい。かなりの量の水が入り込んでいて、この時点で袋に穴が空いていることに気づく。袋を入れ替えてさらに6時間。


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24時間経過し、取り出してようじを刺してみましたが、固くて全然刺さりません。芋を煮る前や、煮はじめて1時間経過後の状況と比較すると多少軟化はしたような気はしますが、まるで食べる気にならない固さです。

結論

途中で袋に穴が空いた影響がないわけではないでしょうが、70度で長時間煮続けても芋は柔らかくはなりきらなそうです。別の方法でペクチンの硬化を無効化するか、素直にペクチンを軟化させられる温度で加熱するのがよいのではないでしょうか。正直個人としては十分うまい芋が作れるようになったように思っているので、今後は焼き芋屋さんを食べ歩いたりして、焼き方や芋の種類で好みを探していこうかなと思ってます。芋、食べましょう。

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今回あんまり美味しそうな芋の写真がないのでサムネ用